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中銀デジタル通貨 Central bank digital currency(CBDC)

決済は多く分けて二種類ある。一つはリテール、個人がクレジットカードを使ってネットで買い物をしたり、個人が口座振替でお金を支払い家を買う、現金を使ってお店で買い物をする。もう一つはホールセール、主に銀行間で行われる大口決済。ホールセール決済には中央銀行自身が口座を決済参加者に提供し、資金の受け手と出し手の間に入り、必要ならば中央銀行自身が資金の出し手となることで、資金循環を潤滑にしている。

 

リテール決済においては、ATMを用意して現金を提供、支店やネットバンキングを通じての口座振替、送金そしてクレジット‧デービットカードでの決済と市中銀行が大きな役割を占めてきた。このような決済機能を市中銀行が提供してきたから、金利が低くとも決済用として市中銀行の口座に資金が滞留していた。それがCBDC(中銀デジタル通貨)で大きく変わろうとしている。ここではカンボジアのバコンと中国のDCEPの2つのCBDCに絞って述べる。

 

カンボジアでは2020年8月現在、14の銀行が参加してバコンの実証実験が行われている。仕組みとしてはカンボジア中央銀行NBC)がトークンを発行し、バコンウオレットを通じてバコントークンの受け渡しができる。バコンの授受では受手が携帯でQRコードを提示したり、送り手が口座番号もしくは電話番号を指定することで送金ができる。バコンのウオレットが銀行口座に紐付いている必要はないが、紐付いている場合は、身元確認済みとみなされ、資金移動の上限が緩和される。中央銀行がバコンの価値を保全しているため、バコントークンの交換だけで資金決済が完了する。

 

カンボジア中央銀行はバコンの仕組みを通して、銀行口座を持っていない人々にも、携帯電話(スマホ)さえあれば、資金送金の手段や倒産リスクを考慮する必要がない価値保存の手段を提供する。またバコンのスマホ.アプリは市中銀行への口座開設誘導手段ともなる。

 

中国の中央銀行中国人民銀行PBC)も同様な手段(Digital Currency Electronic Payment , DCEP)の実証段階に入っている。アプリ上に見える機能で、バコンにないのが「碰一碰 (touch&touch)」。これはNFCを介し、スマホスマホを直接触れ合うことで支払いを行う。つまりネットに繋がっていなくてもオフラインで決済ができる。

 

中国語のDCEPの議論を見てみると、金融政策や制度設計にまで踏み込んでいる。例えば、CBDCは現金と引換にデジタル通貨を発行するために市中銀行から流動性を吸い上げ、また資金がデジタル通貨に資金が流出することによる乗数効果の減少が予想される。また同時に、通貨の電子化により流通速度(Velocity of Money)が早くなりGDPを押し上げる効果も考えられる。CBDCの導入により経済が縮小したり、市中の預金が減ることで資本金が潤沢にある銀行のみ生き残るような結果にならないように制度設計を考慮する必要がある。

 

DCEPはM0(現金と中銀口座残高)の代替と位置づけるなら、市中銀行は勘定科目細目としてDCEPを流動性資産計上し、通貨と同じように中央銀行から金利も付与されるのではないか。そうすると現在、中央銀行による政策金利短期金利)は市中銀行のクレジットリスクの高低に関わらず、一律となっているが、DCEPではクレジットリスクに応じた金利市中銀行に付与したり、また現在銀行だけがクレジットリスクのない中央銀行口座を開設でき、中央銀行から国債などを担保に資金を借りられるが、今後は戦略的に重要な産業(例えば宇宙開発事業や防衛事業)などにも直接資金を中央銀行から配分される仕組みとなるのではないだろうか。少なくともETF購入に資金を使うより、より効率的に戦略的重要な産業に資金投下がされるであろう。

 

最後にバコンとDCEPの未来を占いたい。カンボジアのバコンは世界で初めての中銀デジタル通貨。仕組みは先進的であるが、アプリは利便性が良くなければ普及しない。市中銀行からの問い合わせ対応や、問題が起きた際の処理の手際は良いか。アプリでの決済、送金は遅くないか等が普及の鍵。バコンが先進的な仕組みであるからこそ、途上国であるカンボジアで運用するには敷居が高い。バコンのシステムを支えるソフトウエアはオープンソースとなっているが、バコンのシステム挙動から金融制度まで、俯瞰的に理解し、利便性をサポートできる人材が何人カンボジアにいるのだろう。

 

中国のDCEPはアリペイやウィチャットなどと、国内では競争することになる。アリペイとウィチャットは中国国内に銀行口座を持っていることが前提となるが、DCEPは中国国内に銀行口座を保つ必要がない。そのため外国人や、国外で使用する場合はアリペイやウィチャットより利便性がある。華人が経済を握り、一帯一路に深く組み込まれた国々では、自国の中銀デジタル通貨より、中国が発行するDECPを使用して中国のネットショプ淘宝(タオパオ)で買物をした方が利便性が高い場合もありえる。言い換えると国境を超えた中銀デジタル通貨の競争が始まる可能性がある。

 

アメリカが世界中に基地を持ち、膨大な軍事費用を負担できるもの米ドルが基軸通貨であることが大きい。アメリカは必要ならば米ドルを刷ることで、石油など必要な物資が調達できる。つまり米国の軍事的優位と米ドルが基軸通貨であることには相関がある。そのため、国境を超えた中銀デジタル通貨の競争は、米ドル基軸通貨の立場を脅かすとみなされた場合、軍事衝突にまで発展するリスクがある。 

 

どの中銀デジタル通貨が競争に勝ち、基軸通貨となるのか。最終的に軍事力によって決着が決まらないように、将来を見越して今から競争の枠組みを先に構築する必要があるのでは。本来ならば下記の3ではなく、1と2で競争すべき。

 

1: 中銀の資産:デジタル通貨も、中央銀行の負債と見なせるので、中央銀行や国内政府の財務内容が重要になる。過去に通貨を発行する際にどれだけ規律を持ち、裏づけとなる資産をどれだけ優良なもので積み上げてきたか

2: 通貨の利便性

3: 軍事力

 

参考:

https://bakong.nbc.org.kh/

https://soramitsu.co.jp/

http://finance.sina.com.cn/zl/china/2020-08-04/zl-iivhuipn6727872.shtml