ソシエテ・ジェネラルの巨額損失と内部管理 SOCIETE GENERALE's fraud due to lack of inter-bank outstanding position reconciliation (or central book keeping system for derivatives)
ソシエテ・ジェネラルが不正取引により49億ユーロ(約7600億円)の損失を計上した。どうしてこのような巨大な持高が看過されたのか。すべての取引は相手があることであり一つの取引を終えるごとに自分と相手の帳簿(勘定)に反映される。
損失を隠すため虚偽の取引とは相手と自分の帳簿に記載されている内容に相違があること。具体的には自分の帳簿に記載されているが、相手の帳簿にはない。もしくは自分の帳簿にはあるが、相手の帳簿には自分との取引の記載がない、2つの場合だ。
取引した・しないを明確にするため約定後、取引内容について確認しあう作業がある。この確認作業をする部署をバックオフィス(B/O)といい、実際の取引をする部署をフロントオフィス(F/O)と呼び区別する。この部署の区別は虚偽取引を未然に防ぐための重要な内部統制だ。
今回ケルビエル容疑者によって虚偽取引がなされたとするならば、ケルビエル容疑者は何らかの方法でB/Oにおける取引確認を操作したことになる。取引確認にはEmail,Fax,電話、書面の交換等いろいろな手段がありえるが容疑者はその手段を熟知していた場合だ。
長期にわたって損失が隠されたことを鑑み、ソシエテのずさんな内部管理を批判する記事を見るが取引とは相手(外部)のあることである。本当に取引が存在するかは自分と相手の帳簿を照し合せてみて始めて分かることである。いかに”内部”統制が優れていても相手の帳簿が開示されない限り確認することはできない。つまりケルビエル容疑者は取引時におけるB/Oによる取引確認作業を一回限りにおいて騙せばよいわけだ。
理想は取引のあるすべての相手とお互いに満期を迎えてない持高を日々開示し合うことだろう(Inter-bank outstanding position reconciliation)。しかし実際には不可能だ。勘定系データは各社異なった形で保持されている。全てのマーケット参加者が自分以外の全ての参加者と全く互換性のないデータフォーマットで取引確認データやり取りするほど非現実的なことはない。
証券保管振替機構のような中央集権的な帳簿システム(仮称 central booking with book building system ,CBBB)を置き、個々のマーケット参加者はそれ(CBBB)と自社の帳簿を日々照し合せることを義務とする場合はどうだろうか。CBBB上では発動条件(論理式、数式で表記)+キャッシュフロー+マーケット参加者(グループ)甲+マーケット参加者(グループ)乙の組み合わせに取引契約番号を付与し、ひとつの債権とするイメージだ。この場合取引自体が債権の起債(キャシュフローに対するタグ付けもしくは証券引換え証書)を意味することになる。
この中央集権的構造は直接参加者の自己ポジションに透明性をもたらすため、結果として証券会社は仲介業としての役割が強くなり、自己勘定のトレードはよりヘッジファンド等のほかの主体に移っていくだろう。そもそも不正取引の防止と自己勘定トレードによる自己ポジションの非開示は両立しないものだ。
そのほか副次的効果として第二次流通市場も生まれるのではないだろうか。また自己ポジションの開示を望まない主体は証券会社に名義を借りて保護預かりを頼むことになるがそれだけ証券会社のクレジットリスクを負うことになる。クレジットリスクを避けるためには透明度の高い証券会社を選ぶ必要があり、自己ポジションの非開示に伴うリスクを適切な形で転荷できる仕組みが生まれることを夢想する。
Reference:
http://www.nikkei.co.jp/kaigai/eu/20080204D2M0403304.html