Get Things Right

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昇進する席 − 風水

自分の直属の上司は中国系、シンガポール人で風水が好きだ。曰く、オフィスで座る席にも、昇進する場所、しない場所があるという。昇進する場所とはまず、上司の顔が見える場所。上司が何を考え、何を期待しているか知ることのできる席。そして、窓を背にしない。窓を背にすると、太陽光が背中にあたり、体温が上昇するとイライラしやすい。特に、上司がそのような席に座って、カッカしている組織は望ましくない。次に、人通りが多い廊下を背にして座っている場所は、氣が流れ出てしまうという。(気が散りやすいという意味か?)

風水など、あまり興味がなかったが聞いてみると、随分と合理的な考えだなと思う。また、現実に、風水が大きなビルの建設や、都市計画に影響を及ぼしているのだから、分野によっては知識として知っておいたほうが良いのは確かだ。

風水は古来から存在するが、考えてみればオフォスの席、巨大ビルの建設に対する直接の知見が、古来から存在したとは思えない。きっと新しい課題に対して、風水を一旦、過去の蓄積を元に抽象化し、現代の風水師が新しい文脈を考え出した結果、上記のような合理的な説明が出てきたのだと思う。

ここで言いたいのは、風水が合理的で正しい・正しくないとかではなく、風水が「経済的に成功するための効果的な空間の利用法」という科学の俎上に載せにくい命題を取り扱うための、思考を展開させるための土壌を与えていることだ。この命題を科学的に取り扱うならば、統計を取るぐらいの方法しかないが、それでは面白くない。

哲学も科学の俎上に載せられない問いに対して、思考展開の土壌を提供している。オカルト、宗教も同様。人が興味を持つ事柄に対して、多くの人が共通の言葉で語れる言語空間は、新しい考え方を生む土壌となりえる。

風水に限れば、風水師だけでなく、一般の人が「経済的に成功するための効果的な空間の利用法」について多くを語れば、実際に説得力のある説明や、効果のあるものは定着していくという過程ができる。結果、様々な指針が言葉に落とされ、記録として残る。

中国の文化が文化大革命、多くの戦争・争乱、そして異民族支配を経ても生き残ってきたのは食文化なら薬食同源、漢方なら陰陽五行説 、そして土地利用なら風水と「思考展開の土壌」もしくは思想の域まで抽象化されていたからだ。思想ならば取上げ難く、且つ広がり易い。