論語
紀元前500年頃の中国、中原の地。狩猟時代を遠に終え、自給自足で野に暮らし、農業を基礎に村落を形成していた時代。比較的大きな都市は文化・文明を支える国の中心となり、地方に役人を派遣していた。当然、ある役人が行くとよく治まり、ある役人が行くと土地の風習、風俗がみだれる。なぜだろうか?
祭祀が盛んだった殷の国の末裔である儒という集団は、葬式を含む祭祀の専門家として諸国に知見を広げ、孔子はその知見を受け継ぎ、門弟達を指導し、その門弟達は後に論語を編纂した。論語は初めから「民の統治」の教科書であった。
日本書紀には応神天皇の要請を受け、日本に渡来した王仁という学者が論語を持ってきたとの記述がある。歴代の天皇も帝王学の一環として論語を勉強され、徳川幕府も論語を奨励した。なぜ論語はそこまで重要なのかと疑問を持っていたが、読んでみて論語が人間理解に基づく「民の統治」の本であることを理解すれば、その疑問も氷解する。
雨を天に請い、鬼神怪力がまじめに語られる時代。論語は君子がみせる行動に、人々は感化されると説く(性善説)。隣人に対する深い思いやり。歴史の裏づけがある知識。詩経の如く韻を踏み、見事な比喩により物事の核心を突く言葉。形式だけには終わらない礼の実践。そして人々の心を引き付ける歌や雅楽、等々。論語は実践の書である。
いつの時代でも異民族、外国に遭遇すれば「話が通じる相手か」と相手を値踏みする。話が通じないと烙印が押されれば、次の手段は武力でしかない。その中で礼によって知性を醸し、道理がこちら側にある、もしくは道理がわかるという文脈を人間関係においても外交関係においても、明示しておくということは生存にとって重要なことだ。
2008年5月。北京オリンピック直前、四川大地震が起きた。その中で日本の緊急援助隊が遺体を前に整列し黙祷をささげている一枚の写真が中国で話題になった。反日教育、そして戦争時代の日本軍の映像に繰り返しさらされている人々にはその写真が意外に写ったのではないかと自分は想像する。「野蛮人じゃないんだ」と。人のちょっとした「礼」は相手に大きな発見を与える契機となりえる。
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