ヨーロッパ３　ユダヤ人

ベルリンではシナゴーグ（ユダヤ人の教会）とユダヤ人博物館に、プラハでもユダヤ人街を回った。自分が初めてユダヤ人を意識したのは大学の時。イギリスで寮に住んでいて、アラブ系の友人に、あの子可愛いね！といったら、「ダメだ。あれはユダヤ人なんだ」と彼は答えた。ユダヤ人ってユダヤ教を信じればなれるのと友人たちに聞くと、誰も知らない。かろうじて、母がユダヤ人なら、ユダヤ人じゃないとフランス人が答えた。

また計量経済学の教授はよく胸にダビデの星のバッチを付け、聞いてもいないのに「私はユダヤ人だ！」と言っていた。なんという自己顕示欲。それも迫害され続けてきた集団なのに。

ノーベル賞受賞者を多く排出し、賢いことで有名なユダヤ人。まずベルリンでシナゴーグに行くと、やはりシンボルや像のように、祈りの対象の物体がない。あるのは聖書(トーラ)を読み上げるに使う、教壇。もしくは、学校の教室みたいな部屋があった。勉強が宗教と聞いていたが納得がいく。プラハのOLD　NEW　シナゴーグも教壇があり、それを囲むように机と椅子があった。ユダヤ人は聖書を読み込み、世界との繋がりにおいて、自分なりの解釈を持つこと推奨するという。キリスト教の教会が、絵画や銅像で美しく飾られ、中に入るだけでご利益がありそうなのと比べると、ユダヤ人の教会は、勉強を通して、神が創造した世界の究極的理解の為にある。それは歴史を記録し、ユダヤ人に対する数多くの苦難の歴史を鑑み、且つ、神とは何かを熟考する行動の宗教であり、“信じること”で救われると説くキリスト教徒とは、大きく一線を画す。

ユダヤ人の歴史は興味深い。中世ヨーロッパではゲットーという、ユダヤ人街が建設され、そこに強制的に住まされた。ゲットーは隔離された場所であるからこそ、ユダヤ人の伝統を守るのに相応しく、ヘブライ語を学び聖書を勉強した。また食べ物に対しての厳しい戒律のおかげか、ヨーロッパで伝染病が蔓延した時も、比較的被害が少なかったという。後世、ナポレオンがヨーロッパを席巻し、ユダヤ人差別撤廃も含めて、市民平等の波が、ヨーロッパを覆った。結果、ユダヤ人の多くがドイツ語などの現地の言葉を話し、ヘブライ語やイディッシュ語を話せるユダヤ人は少数となり、世俗化が進んでいた。

ドイツでは第一次世界大戦で、ユダヤ人もドイツ人として戦い、ユダヤ人の多くは現地化していた。しかし第二次世界大戦最中、ヒットラーが律法と戒律の民であるユダヤ人をキリスト教徒であっても、「母親がユダヤ人」ならユダヤ人という定義で、ユダヤ人を捕まえ虐殺した。現在、イスラエルに於いて、ユダヤ人は、アジア系、白人、黒人、ヒスパニック系と人種的、遺伝的に多様である。

ナチのユダヤ人迫害はヒットラーが政権を取る前から、予告されていたため、ナチが政権政権をとった後、虐殺が起こる前には、既に半数のユダヤ人が既にアメリカなどに移民をしていた。最初に移民したのが、ユダヤ人医師に対する医療保険の非適用などで、仕事を失った専門職の人々と聞く。また第二次世界大戦後、社会主義となったヨーロッパの国々では、ユダヤ人独特の生活習慣を守るのが難しく、多くのユダヤ人がそのアイデンティティを失ったという。

ユダヤ教という、厳しい戒律を持つ宗教が、戒律を守らなくとも、神を信じなくとも、虐殺という事件を通して、民族の定義が「遺伝」に変わってしまった。しかし、現在でもユダヤ教への“改宗”を通して、ユダヤ人になる道も残されている。また古代では無理に奴隷に割礼を施し、ユダヤ人へ改宗させることを禁じる法律があったという。

ユダヤ民族は人種なのか、それとも宗教なのか。その立場はユダヤ人の中でも多様な宗派に分かれる。アイデンティティの定義はその本質において、個々の要素に還元することができない、非常に曖昧なもの。なぜなら、先に全体の構造（ゲシュタルト）、ありきだから。ゲシュタルト心理学がユダヤ人によってなされたのも、彼らが自分のアイデンティティを通して、鑑みる機会に恵まれていたからではないか。

参考