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 中国語学習のススメ - 文化面

中国語の学習をはじめて、もう7年以上にもなる。大学での第2外国語も中国語だったから、相当な時間を費やしている。その中で幾つか、勉強していて興味深いと思ったことを、中間発表として述べてみる。

1.中国語の広がり

東南アジアに渡ったのは南部の中国人であり、福建語、客家語、広東語などを話していた。しかし大陸の中国で近年北京語が主軸となり、東南アジアでの中国語教育も、北京語となった。台湾政府も多くの教師を派遣し、例えばフィリピンの華人学校は台湾と同じカリキュラムなため、フィリピン系華人は台湾で働くのが容易であった。横浜の中華街も台湾系と大陸系の学校があると聞いたことがある。

中国語を台湾で話すと下手な順から1)「香港から?」、2)東南アジアの華人ですか?3)台湾南部から?4)大陸から?)と認識が変わってくる。RPGゲームのレベルアップみたいで、レベルアップした時の喜びは大きい。

2.華人の多様性

シンガポールでは中国系が大多数であり、その中でもほとんどが福建省由来。リー・クワンユーのもと、シンガポール人を一つにまとめるため福建語などの方言を禁止していたが、近年初めて福建語がテレビに流れた。「Are you Hokken?」という番組。シンガポール華人文化を理解するにはうってつけの素材だ。

シンガポール人->華人->福建人と幾重とも重なるアイデンティティの構造は、ヨーロッパ人->U.K.->スコットランドウェールズ人などとイギリスにも存在する。問題は、このことを垣間見るには、現地の人との深い付き合いと文化背景の歴史的理解がないと、感じ取ることすらできない。福建人といえども、南のビン南語と北の福州語では全く異なる言語、文化。人との出会い、食べ物(シンガポールのputien福州料理店はオススメ。多様性を感じる)歴史などから、幾重とも重なる中華圏の多様性がベールをめくるように見えてくる。そしてその多様性が急激に失われていることも。

3.中国の歴史

中国語は甲骨文字から直接、現代まで繋がりがある歴史ある言葉。古代中国は海亀の甲羅に文字を書いたり、宮古島で取れる貝をお金にしていたことを鑑みて、海から来た民族と深い繋がりがあると自分は考えている。日本人も縄文人ポリネシア系の海から来た人とすると、中国の歴史は史記にあるように、中原を中心として放射線状に広がったのではなく、海から来た民族も含めて、より混沌で複雑なものが実際ではなかったか 。ちなみに黄帝を全中国人の祖とする思想は 、清から日本に留学していた人が、日本人を天照大御神の祖とする思想をみて利用したという。両者とも近代における国民国家を造る為の方便だった。

4.中国語の歴史

北京語は モンゴル人の征服などを経て形を変えてきた。そのひとつが「把〜」という日本語の「〜を」(目的格)に当たるもの導入。中国語のアルタイ化(膠着語化)と言われるもの 。食べるが「吃」とガツガツしたものなったのも外来からの征服と関係があると思う。

福建省の北部、福州語が近隣の中国語方言と異なるのは軍隊が攻めてきて、 街の男たちを排除し 、そこに住んだからだと福州人は教えてくる。北京語の分布も北から南西に向かって伸びており、古代中国語の面影を残す方言は 南東に向かって、海外に向かってはべりつくように残っている。中国語は文化を持つものが野蛮な民族に打ち負かされる現実、それはローマ帝国ゲルマン人に征服されたように、極限状態での生活で生命力を研ぎ澄ます人間本能の強さを垣間見させてくれるように思える。


4.統治の手段としての言葉

中国語は「学のあるもの」が「学のないもの」を支配する仕組みがあると思う。長々と会議した後、これで「XXXX」と成句でまとめたりと、相手を威圧する術を深い文化とともに言葉の中に備えている。知らないと何を意味してかわからない事が多いのだ。似たようなことは 英語にも言える。やたら英語は同類語が多いことで、同じことを、高級な言葉(大概ラテン語からの輸入)で述べることにより 、理解できる人と理解できない人を分け、より小さなグループしかわからない会話を成している。

最近、結婚式の封筒に文字を書く際「百年好合」と書いたら「最も簡単な文字だね」と笑われた 。漢字は書くことが読むことより格段に難しく、古来より支配者(書ける人)から被支配者(読めるけど書けない人)へと情報の流れが構造的に一方通行になっている。このことは万人が自分の考えを表現するのを非明示的に妨げている。

言葉には人の思考に影響を与える力がある。中国語は短い音に対して情報量が多く、頭の回転が早い人が遅い人を言いくるめることに向いている 。また4文字熟語などのスローガンを造ることに向いているため、他者に対して影響を与える道具として力強い。また最近では台湾で「法」の字が第4声の落ちる音だったのが、第三声の下がって上がる音と、中国大陸と同じに音に改定された。このように中国語では自分の発した音が、為政者により意味や音を一元的に、まるで法律のように改定されてしまうのだ。

5.古代との繋がり

中国では古来より、野に在る人が天下を取る。近年では毛沢東であろう。 山中のゲリラが国盗りをなし、中華民国を台湾に押しやる。大躍進政策の大失敗後、実権を譲った後、文化大革命を引き起こし復権し、突如として4人組が権力を握る。司馬遼太郎曰く「権力の起こり方が非常に古代的」と。中国では大義名分を掲げ、面子を守り、正統性を主張すれば、今でも天下を取ることが出来ること毛沢東は見せてくれた。 まさに高祖劉邦の時代のように 。近年では習近平や薄煕来も大義名分を掲げ、権力闘争に挑む。大義名分の構築は言語能力に寄るところが大きい 。大義名分が通り、権力につけば正統性がついてくる。そして神格化までもが。

毛沢東は、論語由来の「権威は大事」という文化の中で、既存の権威を破壊すことで自からが権威となった 。彼は既存の権威を破壊した後、人々は 新たな依りどころとしての、新しい権威を必要とすることを知っていたのではないか 。また、彼は物事にラベルをはり、事実と関係なしに「白と黒」と言葉で決着をつけることで民は納得することを知っていた。

毛沢東は詩人でもあった。徳による統治を是とする古代中国では、詩を皇帝と臣下が共に読むのは、皇帝の徳を慕う臣下が和諧(harmony)によって統治を行う理想の実践。共産党軍の行軍の際に詩を読み、兵隊を鼓舞したり、彼は言葉の持つ力を様々な手段で、自分の目的のために役立てた。


参考
https://www.youtube.com/watch?v=uoUWCZsvYMI
http://www.putien.com/
http://dict.revised.moe.edu.tw/index.html
http://history.people.com.cn/GB/205396/15741029.html

中国文明の歴史 (講談社現代新書)

中国文明の歴史 (講談社現代新書)

https://www.ptt.cc/bbs/Wrong_spell/M.1302434029.A.A53.html