スティーブ・ジョブスと仏教

ジョブス氏は禅の影響を受けている。1971年（１６歳か）曹洞宗の弘文老師に出会い、８９年ではネクスト社では弘文老師を指導者として招き、９１年の結婚式では弘文老師が式師を務めた。彼が妻とともに弘文老師に笑いかける写真が残っている。７４年にはインドを７ヶ月放浪しデリーからチベットに向かった。禅とインドの瞑想との違いの全てを知りたいという希望を胸に。また日本の永平寺で修行したいと弘文老師に伝えたら「ここでも見つからないものは、あそこでも見つからない」と止められたという。因みに弘文老師は京都大学で学んだ後、永平寺で２年ほど修行している。

ジョブス氏の禅、もしくは精神世界への傾倒は相当なものだった。そのなかで得た結論のひとつに「Simple」であることの重要性がある。インドから帰国後、７６年にアップルを創業した。

自分は高校生の時、曹洞宗に触れる機会があり、永平寺で２泊３日の坐禅をした。長い廊下の雑巾がけ、野菜だけの食事、朝から晩までの坐禅と楽しくなかった。ジョブス氏の生活は億万長者にも関わらず、いつも同じ服、菜食を中心とする質素な食べ物、朝から晩まで仕事。また「アップルの発展ならならなんでもする。それが床掃除なら床掃除もしょう。それが便所掃除なら便所掃除だって」という態度。ジョブス氏が永平寺で自分と同じことを仮にしたとしても、それが彼の情熱と繋がっているなら、苦労と捉えないだろう。同じことでもその意味は、人の持つ情熱や志により全く異なる経験となるのだ。

ジョブ氏は弘文老師を称して「常にドグマを取り除いてくれた人」いう。また坐禅は「Your mind just slows down, and you see a tremendous expanse in the moment」と。彼の禅の理解の深さに驚いて、ここ数日短時間坐禅をしてみた。気づいたことは、心に浮かぶものは、個人の深いところでの囚われ、執着、恐れなどに関係していること。何を大事にし、信じ、問題としているかが、無意識に影響している。だから情熱や志が大事になる。ある程度、崇高なもの（例えば求道心）がなければ人間の生存本能に由来する、欲望や心配ばかりが浮かんでくるのではないだろうか。

お釈迦様は２９歳で出家、３５歳で悟りを開いているのだから、お釈迦様より長く瞑想をしている人は、大勢いるはず。それでもお釈迦様より気づきが、少ないのは瞑想をする以前に、その人の問題意識、知性や経験などに縁るところが大きいのだろう。もって生まれた天賦で（原因、因）、生死や苦楽を真剣に考える経験をし（条件、縁）修行をした後、お釈迦様は悟ったのだ（結果）。

坐禅とは自己を見つめる過程であり、自己がつまらないと気づきが少ない。そのことを今日、中国語の先生に伝えてみると、愚鈍な人ほど一字一句そのまま覚えようとして、逆に真摯な実践（悟り）ができるのではあるのでは。賢い人ほど懐疑的な思いが起ち、自己を変革できない。なるほど「初心」が大事であるとはよく言ったものだ。
仏教を念頭に０５年スタンフォード大学での講演を読み返してみると一つ目の「Connecting Dot」は因果について。二つ目の「Love and Loss」は初心について。３つ目は死とドグマからの開放についてと仏教的と言える。特に毎朝鏡を見つめながら「今日死ぬなら、今からすることをするか」と１７歳から問い続けたという、死に対する彼の態度には鬼気迫るものがある。

最近、アメリカにおいて仏教の広まりを感じる。”Mindfullness”という文字を、宗教的でなく一般の文脈で見るからだ。スティーブ・ジョブスの生き方は、形を変え、今後も人類に影響を与え続けるのでないだろうか。

参考：

http://www.nomadwallet.com/steve-jobs-india-college-drop-out-success-key/
http://the-wanderling.com/steve_jobs.html
http://www.fastcompany.com/3001441/do-steve-jobs-did-dont-follow-your-passion
https://en.wikipedia.org/?title=Steve_Jobs
http://news.stanford.edu/news/2005/june15/jobs-061505.html