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 張学良

1931年9月の満州事変を皮切りに、32年3月に満州国が作られ、故郷東北を関東軍に奪われた張学良。皮肉にも満州事変の際の関東軍司令官は張学良の父、張作霖の軍事顧問を1921年から3年間務めた友人、本庄繁であった。本庄は張学良に部下である石原と板垣の策略を知らなかったと伝えたという(しかし遺書には満州事変は自分一人の責任としている)。本庄が敵となってしまった張学良に、彼の財産を列車二両で北京に送り、それを張学良が 受け取りを拒否する。自己の財産を守るために、軍人をしているのではないと。(本庄の張宛「通告口上書」がフーバー研究所に残っている)

ヨーロッパに外遊に出、戻ってからは蒋介石の下で、共産党軍掃討を担当する。36年12月、 内戦を止め抗日の為に蒋介石拉致し、共産党掃討を止めさせた(西安事件)。

西安事件において周恩来宋美齢、張学良は英語で議論し、楊虎城ひとり英語を解さなかった。どのようなことが話し合わされ、蒋介石は何に同意して、釈放されたのか。当事者は一様に口を閉じる。自分が推測するに25年10月からソ連にいた蒋介石の息子、蒋経国が37年に人質の境遇を解かれ帰国したことから、コミンテルン共産党を支援する、何らかの約束が取り交わされたのでは。

張学良は蒋介石を釈放する際、自宅を部下に与え「兵諌」(兵を勝手に動かし、上官に諌言したこと)に対する責任を取るため蒋介石と一緒に南京へと飛んだ。尊敬する父、張作霖からの「常に首は腰にぶら下げとけ」との言葉を忠実に守り、「兵諌」は国の為、私心無きことその身を以って証明した。

張学良は中華民族の英雄だ。彼の激動の人生と行動に感動した。

ところが、西安事件による抗日の為の国共合作といっても、盧溝橋事件を発端とする、日中の全面戦争は37年7月と7ヶ月後のことであり、36年6月には「兩廣事變」。抗日の名のもとに、南京国民党政府に地方勢力が叛旗を翻したように、「抗日」は蒋介石に対抗するためによく利用されていた言葉であった。張学良の行動は、国際社会との協調を視野に抗日を考えていた蒋介石と比べ衝動的であり(自分でも認めている)、また内戦は日中戦争後再開され、文化大革命での実弟、張学思の非業の死を省みて、必ずしも、良い結果をもたらしたとは言えない。

それで「民族の英雄」から「千古の罪人」へと彼への印象が反転する。あの感動はなんだったのかと。だから現代史を避け、古代史を読んでいたことを思い出した。しかし、このダイナミズムこそが中国現代史の面白さだとも思った。

思い至ったことが三つある。

1.張学良は孫文の理想を掲げる国民党軍に、理想のない地方軍閥(父が率いる東北軍も含む)よりも魅力を感じ、自分の理想「中国の統一」を国民党に賭けた。 しかしその後、国民党軍に幻滅する。その後共産党にも自分の理想である「一致抗日」を賭けたが 、後年のビデオで共産党を支持する彼の発言は見受けられない 。彼は理想を持っていた。そしてそれを人に託したことで、歴史は彼の影響力から離れていった。

2.国民党からみて、結果で彼を判断すると千古の罪人となる。しかしその動機は愛国であり、結果如何によらず、90歳では古参の国民党員から長寿を祝われたように、人間的に良い人だと感じた。NHKのインタビューに応じて、日本の若者の語りかけたことも含めて。結果で人を判断するのは難しい。結果が確定することで、当事者は良い結果の受益者(勝者)と不利益者(敗者)の二者に別れ、一つのことに相対する見方が生まれるからだ。

3.彼は長いこと隔離されていたため、物の見方が比較的当時を留めていると思う。もし監禁されず、台湾で要職を歴任したり、中国で辛酸をなめていたりしていたら、インタビューで語る内容が大きく異なっていたと思う。個人の歴史観もその後の経験で大きく変わる。その意味で、張学良の口述映像は、現代史を理解する上で、人間タイムカプセルのような貴重な情報を与えてくれる。


参考:
https://zh.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%A4%E5%B9%BF%E4%BA%8B%E5%8F%98
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%A7%E6%BA%9D%E6%A9%8B%E4%BA%8B%E4%BB%B6
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AC%E5%BA%84%E7%B9%81
https://zh.wikipedia.org/wiki/%E5%85%B1%E8%B5%B4%E5%9C%8B%E9%9B%A3%E5%AE%A3%E8%A8%80
https://www.youtube.com/watch?v=m3_HfOrDLlk
https://www.youtube.com/watch?v=fDHChA-PzVU
https://www.youtube.com/watch?v=9e2e5Yl0q5Y
張学良の昭和史最後の証言 (角川文庫)
国と世紀を変えた愛 張学良と宋美齢、六六年目の告白 (単行本)
?二人のプリンス?と中国共産党: 張作霖の直系孫が語る天皇裕仁・張学良・習近平
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