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徳と恩

論語、為政篇に「為政以徳、譬如北辰居其所、而衆星共之」とある。「徳を以って政治をすれば、北極星を中心として星が回るように、民衆を治めることができる」と自分は読む。古代中国では皇帝の徳が天下に広がり、臣下は恩を感じることが、古代における為政者の正統性となっていた。

為政者に徳が備わっているか否か。それは為政者の行為(徳)に、臣下が恩を感じていると応えることで確認され、朝廷の典礼はこれを儀式化する。官僚は漢籍の知識、過去の実例、そして歴代皇帝の偉業などを考慮して、典礼の段取りをきめる。間違えれば首が飛ぶほど大事なことだ。

冊封体制も、遠方からの朝貢は皇帝の徳が遠方まで届いていること証であり、皇帝より下賜された宝に朝貢国は恩を感じる。国が治まり、夷狄も皇帝の徳を慕い 、天下が皇帝の徳のもと、平安に治まる。それが統治者しての正統性だ。

皇帝に徳があるか否か。専制主義のもとでは「否」と答えることはできない。極端な話、罰を受けても「多謝皇帝」と言わなければ、如何なる禍害が降りかかるとも知れない。専制主義の国では、徳と恩の意味は限りなく空虚となり、だからこそ宣伝や、典礼(パレードも含む)が大事となる。

王に徳が備わっていることは西洋文明においても議論の対象となった。徳は教え・学ぶことができるのか。ソクラテスはメノンを相手に議論を進める。徳の定義が不明確であること、教えられるのならなぜ、二代目に徳のないものがあるのか等々。アテネは民主主義を経験しており、為政者に徳が必要だが、徳を以って為政者の正統性としていない。選挙が正統性を決めるからだ。だからこそ徳についての自由や議論ができる 。徳と恩の意味は政治が専制か民主かで大きく異なる。

徳と恩の治世の理。中国大陸では、共産党の多大な貢献により、急激な経済成長し道、病院などを造り、人々は飽食を享受できるようになった。民衆は恩を感じ、それが共産党の徳の証明となる 。経済成長が滞り、物質的に変化を感じなくなれば、中華民族という民族主義のプライドを以って、精神的に民衆が恩を感じるようにし、 為政者としての徳、即ち正統性を打ち立てる。また過去の大戦において、日本軍を打ち破ったのは共産党の軍でなければならない。共産党軍でなければ、 共産党毛沢東の徳を毀損する恐れがあるからだ。

習近平は中国の皇帝に相応しい特性を備えていると思う。柔和な笑顔と温厚な表情 。毛沢東により父と共に辛酸を嘗めたにも関わらず、毛沢東をこよなく愛し、尊敬する度量。台湾の民に対する様々な利益の提供。中国の威光をアジア・世界に照らす政策(経済・軍事的)。腐敗に対して厳罰で臨む態度 。時代錯誤な見方かも知れないが、彼は中華の指導者として王道を歩いていると思う。そして習近平毛沢東に続く偉大な指導者として、共産党の徳を彼個人に帰属させるだけの能力があるのではないか。それを可能とするのが、毛沢東訒小平もなしとげられなかった台湾の統一であり、アメリカを抜いて世界一番の国家となり、日本を従わせることであろう。

参考

メノン―徳(アレテー)について (光文社古典新訳文庫)

メノン―徳(アレテー)について (光文社古典新訳文庫)