Get Things Right

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シンガポール

6年住んだシンガポールを離れることになった。シンガポールを一言で表すならば「一向前進」。毎年高い経済成長率を誇り、それが日々の生活に現れていた。近所のスーパーも2回様変わりし、そのたびに扱う商品が高級なものとなり、野菜や果物の形も均一化され形が整っていった。給与もベースアップがあり、毎年昇給した。次々とレストランやショッピングモールがアップグレードされ、値段が高くなっていく。経済成長とは日々の生活が目に見えて、変化していくことことを経験した。

新聞を開けば、一流企業の求人広告で溢れ(小さい国なのに)、同僚の女性たちは20代にして家を買い、資産価値の向上とともに、瞬く間に財産を築いていく。金持ちとは資産価値が急上昇することで、生まれることを知った。

東京都内で狭いうさぎ小屋に住んでいた自分が、シンガポールに移るとともに、プール付きで、海と自然に囲まれたビーチの近くに住み始め、自分の書斎を大きな本棚とともに持ち始める。会社にはタクシー(ベンツ)で通い(時々)窓を流れる海と自然を眺めながら会社に向かう途中、感銘にあふれる感情が自然に湧きでる。この国は凄いと。

日本人に聞いても、インド人に聞いても、欧米人に聞いても、中国人に聞いても母国みたいに住みやすいという言葉が帰ってくる。それだけこの国は多様性に満ちており、様々な国の物資が簡単に手に入る。税金も安く、毎年税を収めるが楽しい。 税金を払ってハッピーになれるなんて、知らなかった。なぜ、税金が安いかといえば、行政が効率的だから。日本のように国、県、市行政と何層も重なりあうのではなく、国の行政しかない。

民主主義じゃないとか、国土が狭いとか、人があまり礼儀正しくないとかネガティブなことをいう人もいるが、なぜ欧米の企業がシンガポールに拠点を置くかといえば、シンガポールが住みやすいから。民主主義に対する自分の価値観も相対的になった。そんなものにプライドをおいて貧乏するより、精神的、物質的にゆとりがある生活を実現させるほうが大事だと。

難点を言えば、医療費が高いこと。先日、数日入院したら数十万円取られた。保険はない。同僚の母親が、医療費が払えなくて死ななければならなかったとお通夜のときに、教えてくれたことを思い出した。死にそうなときに、払えない金額を払ってくださいと言われるのは、精神的に相当きついだろう。特に命はプライスレスと純粋に信じている場合は。それでも平均寿命は長い。

成長とは環境の変化を伴う。そして人の羨む生活が次々に手に入ること。日本の成長戦略を聞くと、自分は冷ややかだ。日本の文脈は「日本はすごい(ものがある)」だから成長する余地があるという、売り手の視点ばかり。そうではなくて「日本はどんな国の人々でもそこに住みたくなる、日本では羨ましくなるような(ハッピーな)生活ができる」という消費者の視点に変わってほしいと思う。美しい国土、ユニークな文化、環境に対する意識、人を騙すことを悪いとする国民性など十分にその余地はある。手続き、ルールを単純化し、何事も迅速に変化できるようにし、街全体の価値を上げるような再開発を促す必要がある。スカイツリーのような一発ものではなく、人々の日々の生活を豊かにするような。そして地域に多様性をもたらすような。

シンガポールは 隣国のマレーシアを、中国の香港に対する深センになぞらえて、イスカンダルプロジェクトという、街の再開発を進めている。シンガポール国土の3倍はあるジョホール州の土地に、新しい街を作り、シンガポールとの経済的結びつきを深め、国土の狭さが経済成長の妨げにならないようにしている。また将来マレーシアとシンガポールを結ぶ、高速鉄道もできるだろう。既にアジアで一番豊かな国だろうと、まだシンガポールは成長する。次は台湾に住む。