デジタル人民元 DCEP(Digital Currency Electric Payment)の国際化
2013年以降、中国の貿易に占める割合は米国を抜いて世界一。しかし中国の通貨RMBが国際決済の中で占める割合は非常に低い。RMBを国際通貨とするためには、自由にRMBを売買ができる環境が必要だが、そうすると為替が変動しやすくなる。人民元高となれば国内産業、特に輸出産業に大きな影響を与える。中国は国内産業を守るため、RMBの為替規制し、為替を安定させてきた。
中国は2015年に中国人民銀行は、電文フォーマットにISO20022、英語にも対応したクロスボーダ人民元決済システム(CIPS)を導入し、各国の銀行が現地法人を通じて、直接中国のCIPSシステムに接続できるようにした。そのことで、欧米の影響化にある仕組み1)SWIFT(電文のやり取り)、2)CHIPS(クリアリングハウス)、3)USD(通貨)を介せずとも直接、人民元を使ってクロスボーダー決済ができる基盤を構築した。しかし人民元がクロスボーダー決済に占める割合は、中国が世界貿易で占める割合に比べ依然低い。
デジタル人民元(DECP)は人民元の国際的地位を向上させる可能性を持っていると考える。以下、架空の例に沿って、どのように人民元の利便性が高められるかを述べる
<前提>
A:FI(Financial Institutions、主に銀行)用DECPウオレット(FIW)を中国人民銀行(PBOC)が国内外問わず世界中のFIに配布する。
B:企業は大口決済DECPウオレット(大口W)を使用。企業の大口Wは、銀行のFIWと紐付く。
C:銀行はFIW内の設定画面を使用して、大口W別に送金上限を一時的に変更することができる。
D:DECP決済は24x7運用
<シナリオ例>
1.企業(日本)が大口DECPウオレット(大口W)を持っており、送金上限が500元とする。企業(日本)の大口Wは、銀行(日本)のFIWと紐付いている
2.企業は中国から輸入するため1000元の支払いを中国企業(所在地中国)に行う必要がある。
3.企業(日本)は輸入書類を銀行(日本)に提出し、1000元の送金枠を申請。手数料を銀行に支払う。
4.銀行(日本)は輸入書類を確認後、FIWを使用して1000元の送金枠を企業(日本)の大口Wに付与(送金枠番号も通知)。またPBOCにも送金枠番号を報告
5.企業(日本)は送金枠番号を自社大口Wに入力後、1000元を送金。
ここで重要なのは以下の利便性:
→資金は銀行ではなく、常に企業(日本)のウオレット内(大口W)にあるため、銀行の倒産リスクを企業は心配する必要がない
→企業は送金のタイミングも銀行の営業時間に縛られず、送金枠番号を取得後、いつでもDECPで送金でき、リアルタイムで資金が届く
→銀行業務は輸入書類審査と報告のみで、送金業務は含まないため、結果として企業の送金コストが大幅に下がる。輸入書類が所定のフォーマットならばAIで自動書類審査も可能なはず
→FIW保持銀行(日本)は中国本土に法人を設立する必要がない。
→大口Wの資金の動きをPBOCがAIスコアリングし、優良な大口Wに対しては送金を事前申請ではなく、事後報告を許可とする。
→現在中国が勧めている人工衛星を利用した量子暗号通信ネットワークと組み合わせば、セキュリティも高まる
DECPをクロスボーダー取引で使用するには、まず初めにDECPを購入しなければならない。DECP購入通貨を国外の輸出入企業に対してUSドルと指定するれば、中国政府は世界貿易に占める割合が高いことを利用して、DECPと入れ替わりに世界に流通するUSドルを吸収できる。
最後にトランプ政権がアメリカファーストと題して「物とサービス」の米国本土への生産回帰の旗振りを担うのは、有価証券の売買等の資本取引中心で米国経済が回っていることの欠点を理解しているからではないか。つまり諸外国が米国から買いたい「物とサービス」の欠如が、回り回って米国ドルへの信認の低下の遠因となる。資本取引での利潤は、生産活動とは関係なく、お金を中央銀行が刷り、株価等の値段を上げることで生み出すことができる。そのカラクリで経済を回さなければ行けない国は、お金を裏付けなく刷ること(通貨の切り売り)を止めることは難しく、新しい通貨の挑戦を受けることになると考える。
参考:
https://www.swift.com/sites/default/files/documents/swift_bi_currency_evolution_infopaper_57128.pdf
https://www.globalcapital.com/article/jby5rxy7zybv/germany-china-rmb-payments-surge-71-swift
https://www.cailu.net/article/13004917988372265.html
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/9807.pdf