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なぜカンボジアの金利は高いのか

カンボジアは現地通貨もあるが、ドルが経済の中心だ。2023121日現在、カンボジア市中銀行1年物米ドル定期金利(満期払い)は以下である。

 

ACLEDA 5.6

https://www.acledabank.com.kh/kh/eng/ps_defixeddeposit?t=

 

ABA  5.5

https://www.ababank.com/en/fixed-deposit/

 

SBI LYUOR 5.75%

https://www.sbilhbank.com.kh/en/fixed-deposit/

 

MayBank 5.5%

https://www.maybank2u.com.kh/en/personal/deposits/fixeddepositaccount.page??type=casa

 

なぜカンボジア金利は高いか?

 

大学の経済学部では一物一価の原則を習う。同じものが二つの市場で異なる価格で取引されていれば、安い市場で買って、高い市場で売ればリスクなしで儲かる(裁定取引)。裁定取引を通じて安い市場では需要が上がり価格も上がり、価格が高い市場では供給が増えるため値段が下がる。

 

ドル金利が海外ではカンボジアより金利が低いのだから、ドルを金利が低い海外市場で調達し、カンボジアの高い金利で運用すれば良いのにと。また金利がさらに低い、円で調達しドル転してカンボジアに送金することも可能だ。そうすることでカンボジアにはより多くのドル資金が流入し、市中銀行はドル預金を潤沢に持ち、金利は下がっていくであろうが、なぜそうならないのであろうか。

 

具体的に言えば、アメリカ大手銀行(例えばCitiバンクなど)の支店を開設し、Citiバンク米国本店がカンボジア支店に資金を供給し、そこから短期金融市場(インターバンク市場)を通じてカンボジア市中銀行に資金提供する。もしくはカンボジア市中銀行CITIバンクカンボジア支店に当座貸越の極度設定(貸出金額を上限設定して、その上限以内で、いつでも当座貸越しができる)することで、決済のための資金繰りを確保できれば、カンボジア市中銀行金利は下がっていく。これはカンボジア経済の発展にも重要なこと。カンボジア市中銀行が低金利で資金調達ができるということは、貸出金利も抑えられ、カンボジア企業の発展を促進する。シンガポールにできて、カンボジアにはなぜできないのだろうか。

 

金融の原則によれば、金利が高いのはリスクが高いから。そのリスクとは突き詰めるとカントリーリスクとなる。以下、具体的なリスクを3つ挙げる。

 

リスクその1

 

米国にはForeign Corrupt Practices ActFCPA (海外腐敗行為防止法)、英国にはUK Bribery Act 2010UKBAと明確に国外でも腐敗(汚職、情収賄)に携わるとを禁じている。新興国で典型的なのがファシリティーペイメント(行政のプロセスをスピードアップするため現地公務員が法的根拠なく比較的少額の支払いを求める行為)。当然ながらこのような支払いは領収書などがないので、会社で払うことになると会計情報の整合性に影響する。

 

新興国からすれば、法律が未整備で、税収も低く、公務員の給与が低い中、ファシリティペイメントは個々の公務員の切実な要請から由来する慣行であり、防ぐのが難しい。1日に多く書類を処理したからといって、給与が上がるわけでもないのだから。これは先進国と発展途上国の商慣行の違いだが、発展途上国では問題なくとも、米国に戻れば海外での違法行為の従事となる。

 

リスクその2

 

Citiバンクカンボジア支店が仮に開設されれば、カンボジアで貸出業を行う。その中で直接貸出をした企業、もしくは貸出した銀行の融資先の企業が、森林伐採などの環境破壊、違法行為、未成年就業、人権侵害などをおこなっていた場合、融資をした銀行は間接的に資金提供を通じて、幇助したことになる。そうなれば米国での追及は免れず、銀行の信用、風評に大きな傷ができる。またそうなれば米国だけでなく、他の先進国での事業にも影響が出る可能性もある。

 

リスクその3

 

2020523日のアクレダ銀行の株価を見ると22,600リエル(5.65ドル) 2023116日の株価は10,840リエル(2.71ドル)となっている。過去3年間、コロナ禍にも関わらず、国内経済は高成長を続け、アクレダ銀行も順調に成長している。しかし株価は半額以下だ。企業が成長しているなら株価も本来は上がるはずである。そうでないのは、本来ならば、質、量とともに十分な情報をもとに適正価格が形成され、企業価値が価格に反映されるべきなのだが、価格が情報集約機能を果たせてないことを示唆する。銀行からすれば、上場企業の場合、貸出には株を担保とするのだが、株価が十分な質と量の情報に基づいて価格形成されていないとすると、株価にどれだけ担保価値があるのか判断しかねる。

 

以上、リスクを列挙してきたが、カンボジアは一つ一つ対応をしている。リスク1ではマネーロンダリングに関する金融活動作業部会(Financial Action Task Force on Money Laundering)という国際的な仕組みを通じて取り組みがなされている。リスク2では2018年に策定されたRectagular Stragetyにて 反腐敗戦略が明確化されており、リスク3においてはJICAや国際機関の協力のもと指標を作成したり、最近では信用調査機関(credit bureau)も設立され情報の集約も始まっている。

 

カンボジアのカントリーリスクが低くなり、海外から巨額の投資が流入し、経済が急速に発展するのが一番良いシナリオだ。逆にリスク1、2、3などのをあまり注視しない投資に中国の一帯一路がある。経済成長戦略のジレンマとして、リスク1、2、3に対応するとしながらも、特にシアヌークビルの投資などに見られるように、カジノや、中国の一帯一路の投資に依存していること。このジレンマにどのように対応していくかがカンボジアの未来の分かれ道になると考える。

 

追記:自分はブロックチェーンなどのICT技術が上記リスク対応の鍵となると考える。

参考:

https://www.businesslawyers.jp/articles/47

https://www.nbc.org.kh/english/economic_research/banks_reports.php

https://www.fatf-gafi.org/en/publications/Mutualevaluations/Fur-cambodia-2022.html

https://www.khmersme.gov.kh/wp-content/uploads/2022/09/Rectangular-Strategy-Phase-IV.pdf

https://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh/e/f8ebce107aa31ceced114336638fa4cf