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孫ピン兵法

孫氏の兵法書は2つある。ひとつは春秋時代の呉の国で活躍した孫武のものと、もう一つは時代が下り戦国時代の斉の国で活躍した、孫臏のもの。
孫武の兵法の完成度に感銘をうけ、それより時代の下った孫臏の兵法はどんなものだろうと読んでみた。
読後考えたことは、優れた戦略家は道家的、もしくは弁証的な思考の持ち主なのではという仮説。孫武も孫臏も、陣形、兵器の使い方を聞けば、その答えは淀みなく、とどまることころを知らない。このことは、彼らがパターンを暗記して答えているのではなく、それよりも原理、原則(道)を理解しており、それに従って答えていると思われる。
孫臏が威王と田忌から戦争に関する質問を受けたあと、弟子に「未達於道也」(二人とも道に達していない)とその感想を述べた。ではその道とは何であろう。
自分はこの孫臏の感想に道家的な思想を感じる。例えてみよう。
水は高いところから、低いところに落ちる。これは天地自然の道理である。では
 勢いのある軍隊は、勢いのない軍隊に勝る。(A)
 数の多い軍隊は、数の少ない軍隊に勝る。(B)
 迅速な軍隊は、のろまな軍隊に勝る。(C)
これらは天地自然の道理と言えるだろうか?自分は孫臏が水に流れ道があるように、理にも流れ道があり、これらを天地自然の道理として同列に捉えていると考える。彼の言葉の多くは対立する概念で成り立っている。例えば、多い、少ない。迅速、のろまなど。
孫臏は
 1)戦争も(水の流れと同様)天地自然の道理に従う。
 2)だから勝つためにその法則を見つける必要がある。
 3)そしてその法則を見つける(記述する)ために、相互に対立する概念を見つける。
 4)対立する概念を同時に内包し、秩序を見出す(理の流れる道。例えば上記(A)(B)(C))。
ということをしているのでは。重要なのは4)。例えば、相手の弱みを知る際、同時に相手の強みも知る。相手を知る際、自分のことも知る。勝つことを考える際、負けることも考える。動くことを考える際、動かないことも考える。

人間、一つのことを考えると(たとえば自分の成功について)、なかなか逆のこと(自分の失敗)について考えが及ばない。相互に矛盾しているからだ。しかし、それができるからこそ孫武、孫臏は優れた戦略家なのではないだろうか。
孫子の「戦わずして勝つ」、「兵は詭道」という考えは、多分に逆説的だ。このような結論に達するには「勝つために?→強くなる→鍛錬だ→そして勝つ!」などという直線的思考ではなく、相反する逆説的視点を、同時に使いこなす複眼的思考でなければならない。そして複眼を使いこなしてこそ、相反する逆説的視点を結びつける、新たな発想の広がりとなるのではないか。

孫〓兵法―もうひとつの『孫子』 (ちくま学芸文庫)

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新訂 孫子 (岩波文庫)

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