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2016年1月16日 台湾総統選挙


台北市内の繁華街には時折、台湾独立の旗を持った人が立っている。中国は独立を宣言すれば、武力行使を辞さないと表明している中で、台湾の独立の議論は「死か独立か」の二者択一であり、現状実質的に独立国として台湾は存在しているのだから、台湾独立論は魅力がなく、危険だとも自分には思える。ところが、蔡英文の勝利宣言をテレビで見ていたら大きなスクリーンで「We are Taiwanese」と出ていて驚いた。

いま両岸(中国と台湾のこと)の関係は「一中各表」と表されている。中国の「一中」は「一つの中国」、英語では「one china」と訳される。しかし中国語の「一中」は英語で A China, First China, Unified Chinaなどにも解釈でき、「表」は補語が無いため自由に訳せる。そのため台湾は「ひとつの中国って言うけど、各々がすきに解釈しよう」と理解し、中国は「台湾は独立しないと各々表明しよう」と理解する。中国語でのスローガンは漢字の多義性により非常に政治的にできている。だから中国語では日本語のように漢字一文字で使うことが少なく結果補語、可能補語などの補語が口語において洗練されている。

選挙結果には驚きはない。選挙が始まる前から国民党はもう駄目だと皆がいっていた。国民党も民進党も「経済をよくしよう」と同じことをいう。しかしだれも「どうやってよくする」という処方箋は示せていない。アジア四小龍(台湾、韓国、香港、シンガポール)50、60年代の高度成長期、台湾は輝いていたが、いまは平均月収はシンガポールの半分以下。多くの若い台湾人がシンガポールや中国に出稼ぎに出ている。再びアジア四小龍の「頭」として輝くため、国民党の馬英九は選ばれた。しかし過去8年間学んだことは中国と近くなっても、貧富の格差が広がるだけ。より中国に近い香港の惨状を見ても、雨傘革命運動に代表されるように、幸福にはならないこと。台湾人は香港人の悲哀を草の根レベルで感じ取っている。

ある日、台北市内の地下道を歩いていると、町はバリケードで封鎖され、若者は黒いTシャツをきて興奮しているようだった。ヒマワリ運動だ。台湾は中小企業が多く、巨大な中国企業が台湾で自由にビジネスが出来ることになれば、台湾の経済は多大な影響を受ける。学生達が立法院を占拠して、海峡両岸サービス貿易協定を阻止した。その時のテーマソングが「この島の夜明け」台湾語で歌われている。

幾つか総統選挙の映像を見たが、台湾語で候補者は語りかけていた。 台湾人としての意識がこの島において高揚しているのだなと思うと同時に、以下の問題意識を持つ。

経済成長とは世界経済市場のなかで、より高い付加価値を生み出す地位・役割を担うことであり 、シンガポールは英語を共通語として、自国民の国際化を推し進めて世界のアジア地域のハブ(中心)の役割を担い、豊かな国となった。沖縄がウチナーグチ(沖縄方言)や福建省との歴史的繋がりを再確認しようとも観光以外、世界経済での沖縄の立ち位置と関係がないように、台湾人が台湾語を強調し、台湾人としての意識を高めることは、 世界経済市場で高付加価値の役割を担う助けとなるのだろうかと考える。このようなナショナリズムは、今の日本のようにひたすら「日本は凄い」というテレビ番組を創り、自己満足の世界に入り、問題の本質から目をそらすことにはならないだろうかと。

台湾は民主主義で、表現の自由がある唯一の中国語圏。日本と台湾は歴史的共通認識を、 持つことができると感じる。史実の整合性を政治から離れて語る土壌があるからだ。台湾人もより整合的な歴史を強く知りたがっている。蒋介石は凄いというなら、なぜ大陸で負けたのか。台湾の歴史とはなにか。以下のYoutubeチャネル「Taiwan Bar」はコミカルに抑えつつ、良い・悪いとラベルを貼るイデオロギーからの脱却を強く意識しながら、歴史的、政治的なトピックを説明しているところに好感が持てる。

選挙によって「中国人」か「台湾人」を強く意識する台湾。「中華における台湾」という呪縛から、「世界における 台湾」と、どのように台湾のアイデンティを構築していくか蔡英文の手腕が問われる。

参考:
この島の夜明け
https://www.youtube.com/watch?v=lDX5pBtOxOI
Taiwan Bar
https://www.youtube.com/channel/UCRNsHFT7BFoAPBcuAa5sgEQ